2002.9.29

面影のまち 新潟

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| 上越新幹線始発列車、眠い〜。 |
東京発6時08分の上越新幹線新潟行き「あさひ301号」は8両編成、我が6号車の車内ではあちこちで赤ペン片手のギャンブラーが熱心に競馬新聞を見つめている。それもそのはず。今日は新潟競馬場で秋競馬の序幕を飾るGI競走「スプリンターズステークス」が開催されるのだ。
もっとも本来中山競馬場で行われるレースだが、今年は府中競馬場の改装工事に伴う変則開催により新潟での夏競馬が一ヶ月延長され、晴れてここ新潟でのGI開催の運びとなったのだ。この史上初の快挙を一目見ようと、一攫千金夢見るギャンブラーは朝一番の新幹線で新潟を目指すのだ。
日暮里付近で地上へ出る。秋雨前線の影響か今日も東京は曇天模様で、彼岸過ぎの日の遅さも相まってあたりはまだ薄暗い。
荒川を渡り、埼京線の線路とぴったり寄り添い走る。まるで複々線になったようだ。この区間は昭和60年の東北新幹線上野延伸に伴い開業した新線区間だが、住宅地を走るため騒音対策から最高速度は在来線並に抑えられ、新幹線らしからぬ速度で首都近郊の新興住宅地を抜けていく。
さいたま新都心の巨大ビル群を眺めながら、6時14分大宮着。100万都市さいたまの中心駅だけあって乗降が多い。私の隣の席にも柏崎の実家へ帰るというおばちゃんが乗ってきて、これで我が6号車は満席となった。
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| さいたまさいたま〜 |
大宮を過ぎると新幹線は本領発揮。瞬く間に時速260Kmへと加速して、震える程の速さで彼岸の関東平野を駆け抜ける。家々が途切れるとこんどは霧がかかり、幻想的な白い光景の中をひた走る。
熊谷駅を猛スピードで通り過ぎ、北関東の長閑な光景の中を行く。車窓には田んぼや畑が現れ始めた。畑のあぜ道で真っ赤な彼岸花が萌えている。空は幾分明るくなり、東の空には厚い雲の向こうに微かな朝焼けが見て取れた。烏川を渡ると左手に高崎観音の姿が現れて、6時58分、北関東のジャンクション高崎に到着した。
「新潟といえば、田中角栄さんですよね。」
大宮からお互い取り留めもない話を繰り返してきた柏崎のおばちゃんに話を振ってみる。するとおばちゃん、我が意を得たりと急に元気になり、
「この新幹線も角栄さんが造ってくれたんですよ。」
と嬉しそうに話す。
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| カクエイ新幹線? |
上越新幹線が開業したのは今から20年前の昭和57年。当時の我が国は2度のオイルショックを経験し、戦後続いた高度成長に陰りが見え始めた頃である。日本国有鉄道も慢性的な累積赤字に悩む中、何故さして急がれる程でもない上越線に新幹線が出来たのか、その答えは言うまでもないだろう。
「私の実家の隣の西山が角栄さんの故郷でしてね、もう私の死んだ両親なんか、車で角栄さんの実家の脇を通る度に手を合わせて頭を下げるんですよ。」
噂には聞いていたが、新潟県民にとっては今も神のような存在なのだろう。おばちゃんの話にもどんどん熱が入ってくる。丁度私が故郷が産んだスーパーヒーロー『トゥ・ハート』を語るように。
右手に赤城山が見えてきた。
「でも真紀子はダメだね。角栄さんはとても下の人を使うのが上手かったけど、真紀子は下手。外務省の件ももう少し上手くやればよかったのにね。」
奥様方のアイドル田中真紀子もこのおばちゃんの手に掛かれば角栄さんの足元にも及ばない。以後もおばちゃんのお国自慢はどんどん続く。するとおばちゃん、車内販売のお姉ちゃんを呼び止めコーヒーとサンドイッチを御馳走してくれた。
角栄おそるべし!
「でも真紀子はまた復活すると思いますよ、一応人気もありますしね、まあ、なんだかんだいって女の人もあれくらい威勢がないといけませんよ。それに比べればあの婿養子の旦那なんてまったくダメですからねえ。」
赤谷川の大アーチ橋を渡り上毛高原駅を通過する。山間のなんの変哲もない駅だがここには田中角栄の友人が経営する大病院がある。いわゆる「政治駅」だ。
まもなく全長22221mの大清水トンネルへと突入する。青函トンネルの開業までは世界一の長さを誇ったトンネルだ。群馬、新潟の県境にそびえる谷川岳を一気にぶち抜く大トンネルに、彼の権力の凄さを改めて思い知らされる。
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| トンネルの向こうには... |
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。霧の雨が舞っていた。高架駅に新幹線が止まった。7時25分、越後湯沢着。にいがた国体マラソンに参加するとおぼしき選手団が下車していく。御存知文豪川端康成が愛した大温泉地だがオフシーズンの早朝では閑散としており、駅裏に林立するリゾートマンション群がバブルが弾けた今ただ冷たい秋雨に打たれて黙っている。
草ぼうぼうのガーラ湯沢スキー場が見えるとまたトンネルに入った。日本の尾根を越える上越新幹線は高崎〜長岡間のほとんどがトンネルで、風光明媚な山岳光景が楽しめる在来線とはうって変わって景色はほとんど見られない、まるで田舎の地下鉄に乗っているようだ。
長いトンネルを何本も抜け、7時39分浦佐着。ここも田中角栄の息がかかった政治駅だ。おばちゃんに「小さな駅ですね」とたずねてみると、「来月の八海山火渡大祭はすごいですよ」という答えが返ってきた。よくみると駅ホームにもその宗を書いた大きな垂れ幕が掛かっている。
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| 弥彦山 |
最後のトンネルを抜けると穀倉地帯が広がった。軽やかな秋風にコシヒカリの稲穂が揺れている。雲の切れ目から晴れ間も見えてきた。7時52分、長岡着。ここで柏崎のおばちゃんが信越本線に乗り換えるため下車していった。駅ホームには「米百俵のまち長岡」と書かれた大きな看板が建っている。
遠くに弥彦山を眺めながら穀倉地帯をひた走り、新潟交通の廃線後を跨いで信濃川を渡ると新潟の市街が見えてきた。右手に見える大きな円形の建物は6月のサッカーW杯で使われた新潟ビッグスワンだ。
8時16分新潟着。